インフルエンザ予防接種は、インフルエンザの感染や感染後の重症化を防ぐ重要な手段です。
しかし、その効果や適切な接種タイミング、不活化ワクチン・生ワクチンのどちらを受けるべきかなどについて悩む人も多いのではないでしょうか。
ほかにも、接種後どのくらいの効果が持続するのか、感染・回復後にも接種が必要なのかといった点にも疑問があるかもしれません。
この記事では、予防接種の効果、適切な接種時期、ワクチンの種類、感染後の接種はどうするべきかなどについて紹介します。
インフルエンザ予防接種について悩みがある人は、ぜひ参考にしてみてください。
インフルエンザ予防接種の効果とは?
インフルエンザ予防として知られているワクチンは、接種すると具体的にどのような効果があるのでしょうか。
ここでは、インフルエンザ予防接種の効果や感染予防の仕組み、効果の持続性などについて詳しく紹介します。
予防接種の基本的な効果と感染予防のメカニズム
インフルエンザワクチンを接種すると、身体がその成分に反応して抗体を作ります。
体内にできた抗体は、実際のインフルエンザウイルスが侵入した際、感染が広がる前にすぐに反応し、インフルエンザウイルスを攻撃して無力化します。
通常、インフルエンザウイルスが体内に入ると免疫がそれを異物と認識し、撃退するために抗体を作るのですが、自然の場合は抗体が作られるまでに時間がかかるのが難点です。
抗体ができるまでにインフルエンザウイルスが体内で増殖してしまい、発症につながることがあります。
一方、インフルエンザワクチンの接種によってあらかじめ抗体が作られていると、インフルエンザウイルスが侵入した直後にその抗体がすばやく反応します。期待できる効果は以下が代表的です。
- インフルエンザウイルスの活動を抑え込める
- 発症リスクが低くなる
- 発症しても重症化防止が期待できる
つまり、インフルエンザワクチンによる『事前の抗体準備』を獲得しておくことにより、インフルエンザウイルスに対する身体の防御システムが強化され、感染からの素早い回復や、軽い症状で済む可能性が高まる仕組みです。
インフルエンザワクチンの効果はどのくらい続く?
ワクチン接種後、通常は約2週間で抗体が形成され、その後は約5か月にわたって予防効果が持続します。
この特徴を利用し、インフルエンザの一般的な流行期である冬に備えて秋口にワクチンを接種しておけば、流行期間中の感染予防に役立つでしょう。
ワクチン接種の具体的なタイミングについては、後述する『インフルエンザワクチンを打つタイミングは?』を参考にしてみてください。
なお、ワクチンの効果には個人差があり、年齢や基礎疾患の有無などによって変わります。
100%発症を防ぐわけではない
インフルエンザワクチンは必ずしも100%の効果を発揮するわけではなく、接種してもインフルエンザを発症する人がいます。
しかし前述の通り、発症後の重症化を防ぎやすくなるため、予防接種がインフルエンザ予防策の一環として有効であることは変わりません。
ただし、インフルエンザウイルスは年々変異し、予想されていた株(ウイルスの種類)と異なるウイルスが流行することがあります。
その場合、ワクチンの効果が低下する可能性があるため、予防接種に加え、手洗いやうがい、マスク着用といった日常的な対策も重要です。
なお、手洗いやうがい、マスク着用などは、予想されていた株と一致したインフルエンザウイルスが流行した際にも有効なため、ぜひ毎年取り入れてみてください。
インフルエンザワクチンの種類
インフルエンザワクチンには『不活化ワクチン』と『経鼻生ワクチン』の2種類があります。
どちらもインフルエンザの感染予防や重症化防止効果が期待されますが、仕組みや接種回数などに違いがあります。
ここでは、それぞれの特徴と接種方法について詳しく解説します。
不活化ワクチンの特徴・効果と接種回数
不活化ワクチンは、ウイルスを処理して感染力を失わせた成分を使うワクチンです。安全性が高く、日本でも広く使用されています。
しかし体内で増殖することがないため、十分な免疫を獲得するまでに数回の接種が必要になる場合があります。
一般的なインフルエンザの不活化ワクチンの接種回数は、大人(中学生から)が1回、子どもが2回になることが多いです。
これは大人に比べて子どもがインフルエンザの免疫力が低いことが関係しており、2回の接種によってより高い免疫力を獲得する狙いがあります。
経鼻生ワクチンの特徴・効果と接種回数
経鼻生ワクチンはウイルスを弱毒化して作られた種類で、体内で自然に抗体ができやすく、1回の接種で効果が期待できることが特徴です。
インフルエンザの経鼻生ワクチンは比較的新しく、2003年にアメリカで使用がスタートし、日本では2024年に『フルミスト』の使用が承認されました。
弱毒化はウイルスが生きているため、不安を覚える人もいるかもしれませんが、そのウイルスで病気にならないようにしっかりと処理されており、過剰な心配をする必要はありません。
ただし経鼻生ワクチンの接種が向かない人や状態もあるため、判断が難しい場合には事前に医療機関で相談することをおすすめします。
ワクチンの接種方法や対象年齢・接種回数
インフルエンザワクチンの接種方法には、注射と鼻スプレーの2種類があります。それぞれの違いは以下の通りです。
種類 | 接種方法 | 対象年齢・接種回数 |
---|---|---|
不活化ワクチン | 注射 | ・0歳6か月から接種可能・13歳未満は2回接種 |
経鼻生ワクチン | 鼻スプレー | ・2歳~18歳が接種対象・接種回数は1回 |
注射による不活化ワクチンは年齢に関係なく接種できますが、鼻スプレーによる経鼻生ワクチンは免疫の低い人や持病のある人には推奨されないこともあります。
特に以下の人は、経鼻生ワクチンよりも不活化ワクチンが推奨されます。
- 喘息の人
- 免疫不全の人
- 周囲に免疫不全患者がいる人
- 妊娠中の人
- 無脾症の人
- ミトコンドリア脳筋症の人
- ゼラチンアレルギーを持つ人
不活化ワクチン、経鼻生ワクチンのどちらも感染予防効果や重症化予防効果が期待できますが、自分に合った方法を医師と相談して決めてみてください。
インフルエンザワクチンを接種できない人・注意が必要な人
インフルエンザワクチンは多くの人が接種できますが、以下の条件にあてはまる人は接種できません。
- 以前にインフルエンザワクチンを接種し、アナフィラキシーを起こした
- 医師が接種できないと判断した
アナフィラキシーとは、簡単に言えば『重度のアレルギー症状』です。じんましんや赤み・かゆみのほか、めまいや立ちくらみ、場合によっては呼吸困難などが起こります。
過去にインフルエンザワクチンを接種したものの、このような症状が出た人は接種できません。
また、以下のような人は接種の際に注意が必要です。
- 心臓血管系・腎臓・肝臓・血液・発育障害などで基礎疾患を持つ人
- 予防接種で接種後2日以内に発熱したことがある人
- 予防接種で接種後2日以内に全身性発疹等などの症状が出たことがある人
- 過去にけいれんを起こしたことがある人
- 過去に免疫不全の診断を受けた人
- 先天性免疫不全症の近親者がいる人
- 間質性肺炎・気管支喘息など、呼吸器疾患を持つ人
- 鶏卵・鶏肉・鶏由来のものに対してアレルギーを持つ人
心当たりがある人は、接種前の問診などで医師に相談してみましょう。
インフルエンザワクチンを打つタイミングは?
インフルエンザワクチンは、毎年の流行に備えて適切なタイミングで接種することが重要です。
インフルエンザは秋から冬にかけて流行するため、ワクチン接種は流行前の10月から11月頃が推奨されます。
ワクチンの接種後、抗体が十分にできるまでに約2週間かかるため、早めの接種でインフルエンザの流行に備えましょう。
また、インフルエンザは毎年異なる株が流行する性質上、使用されるワクチンもそれを予想して毎年異なるものが用意されます。
インフルエンザを効果的に予防したければ、毎年予防接種を受けるようにしましょう。
インフルエンザに感染・回復後でも予防接種は必要?
インフルエンザに感染・発症し、回復した後でも、インフルエンザワクチンの予防接種をおすすめします。
ここでは、インフルエンザ感染後の予防接種が必要な理由について紹介します。
回復後の予防接種をおすすめする理由
感染後も、異なる種類のインフルエンザウイルスに対しての予防接種が効果的です。
インフルエンザに感染すると一時的に免疫がつきますが、これは感染した型のウイルスに対してのみ有効で、ほかの型に対する免疫はつきません。
インフルエンザは毎年1種類だけが流行するわけではなく、複数の種類の流行に備える必要があります。
ワクチン接種により新たな抗体が作られ、別の型への免疫が強化されることで再感染のリスク軽減が可能になります。
さらに、万が一再感染した場合でも重症化を避けやすくなるメリットがあるため、「もう罹患したから不要だろう」と考えず、可能であれば接種をおすすめします。
家族や職場への感染防止にも
回復後に予防接種を受けておくことで、自分の体調管理だけでなく、周囲の人の健康を守りやすくなります。
インフルエンザに一度感染して回復した人が再感染することは、家庭や職場で再び他の人にウイルスを移すリスクが再び生じることでもあります。
特に、免疫力が低い子どもや高齢者がいる家庭や多くの人と接する職場環境では、再感染による拡大をできる限り防いだほうがよいでしょう。
回復後の予防接種を受けるタイミング
インフルエンザから回復した後、再感染予防としてのワクチン接種を考える際は、体調が完全に回復してから1週間を目安にしましょう。
日常生活に戻ってすぐに接種したいと考える人もいるかもしれませんが、すぐの予防接種は身体に負担をかける恐れがあるため、体調の回復を待つようにしてみてください。
体調が整っていない場合にインフルエンザワクチンを接種しても、免疫系に正しく作用せず、期待した効果が発揮されない可能性も考えられます。
接種前の問診などで「○○日前にインフルエンザにかかった」と説明し、接種してもよいかどうかを医師に確認してみるのもおすすめです。
インフルエンザ予防接種を効果的に受けるための注意点
インフルエンザ予防接種の効果を実感するためには、接種前後の準備や日常的な予防策も大切です。
体調管理や副反応への対応など、いくつかのポイントを押さえることで、より効果的に予防効果を引き出せる可能性が高くなるでしょう。
ここでは、接種前に意識したい準備や、日常生活での工夫などについて詳しく解説します。
接種の前日~当日の注意
予防接種の効果を十分に引き出すためには、体調を整えることが大切です。接種前は十分な睡眠と栄養をとり、体調を安定させるようにしましょう。
また、前日・当日のアルコール摂取は禁止されているわけではありませんが、体調への悪影響を心配する人は、予防接種の期間中だけでも避けてみてはいかがでしょうか。
当日に以下のような症状が出ている場合、接種できないことがあります。
- 37.5度以上の発熱がある
- 頭痛・腹痛などの体調不良がある
- 睡眠不足である など
このような症状があれば医師に相談し、接種のタイミングを再検討してみてください。
ワクチンの副反応とその対処法
インフルエンザ予防接種後に、腕の腫れや赤み、軽い発熱などの副反応が現れることがあります。
一般的には数日以内に治まりますが、接種後は無理をせず、身体を休めるようにしましょう。
副反応が出た場合は、患部を冷やしたり、必要に応じて痛み止めを使ったりして対処します。症状が重いのであれば医師への相談も検討してみてください。
また、インフルエンザワクチンの接種ではまれにアナフィラキシーショックが起こることもあるため、強い症状が出た場合は迅速に医師へ相談しましょう。
効果的な予防には生活習慣の見直しも重要
インフルエンザ予防には、予防接種に加えて、日常的な生活習慣の見直しも大切です。
手洗いやうがい、十分な栄養と休養を心がけ、健康を維持するライフスタイルを意識しましょう。外出時や人の多いシーンではマスク着用もおすすめです。
このような行動と予防接種を合わせれば、インフルエンザの流行シーズンに感染リスクを下げたり、感染しても重症化を避けられたりするメリットが生まれやすくなります。
毎日の生活の中でできることが多いため、ぜひ取り入れてみてください。
まとめ
インフルエンザワクチンの予防接種は、毎年流行するインフルエンザの感染を予防するために有効な方法です。おすすめの接種タイミングは流行前の10~11月頃で、接種後は約5か月の持続効果が期待できます。
接種したからといって100%発症を防げるわけではありませんが、万が一発症しても重症化を防止しやすいため、いざという時に備えて毎年接種することをおすすめします。
広尾クリニック 内科・消化器では大人も子どももインフルエンザの予防接種が受けられます。接種前の疑問・不安などがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。