
アニサキスは魚介類に寄生する線虫(寄生虫)で、生食によって人の体内に入り込むと食中毒を引き起こします。
感染すると数時間以内にみぞおちの激しい痛み(胃痛)や吐き気、嘔吐などの症状が現れる可能性があり、まれに腸閉塞を引き起こすこともあります。
一方、発症時間や症状の程度には個人差があり、必ずしもすべての人に強い症状を伴うわけではありません。
この記事では、アニサキスの症状や発症時間、胃や腸での影響、症状が出た場合の対処法などについて紹介します。
また、緊急時に受診できる医療機関の情報についても紹介しているため、アニサキス症が疑われる場合は受診を検討してみてください。
アニサキスに感染するとどんな症状が出る?

ここでは、アニサキスの主な症状や発症時間、ほかの食中毒との違いなどについて紹介します。
アニサキス症の主な症状
アニサキス症は、寄生部位によって『胃アニサキス症』と『腸アニサキス症』に分類され、いずれも激しい痛みのような強い症状を伴います。
『胃アニサキス症』は、生の魚介類を摂取してから数時間以内に激しい胃痛、吐き気、嘔吐などが現れます。
アニサキス幼虫が胃壁に侵入し、強い炎症を引き起こすことで発症し、特に胃の粘膜に強く食い込むため、激しい痛みを伴うことが特徴です。
一方、『腸アニサキス症』は摂取後十数時間から数日後に下腹部の激しい痛みや腹膜炎症状が生じることが特徴です。
腸内に移動した幼虫が腸壁に侵入して起こる症状ですが、炎症や腸閉塞の原因となることがあり、場合によっては手術が必要になるケースもあります。
また、まれにアニサキスが引き金となり、発熱や蕁麻疹、呼吸困難などのアレルギー症状を引き起こすことがあるため、もともとアレルギー体質の人は注意が必要です。
アニサキスの症状はいつから?発症時間と症状の進行
アニサキス症の発症時間は、摂取後約1時間から数日以内です。胃アニサキス症の場合は12時間以内、腸アニサキスの場合は十数時間から数日かかることもあります。
しかし発症時間には個人差があり、アニサキスの寄生部位や数によっても異なる場合があるため、注意が必要です。
例えば、胃に寄生した場合は比較的早く症状が出ることが多いですが、腸に移動すると発症まで時間がかかります。
症状が出るまでの時間差があるため、食事から時間が経っている場合でも、強い胃痛や腹痛などを覚えたのであれば、アニサキス症の可能性を考慮したほうがよいでしょう。
通常、アニサキスは数日~1週間以内に死滅しますが、炎症が続くとより深刻な症状を招くことがあります。異常を感じたら早めに医療機関を受診し、適切な診断と早期の治療を受けましょう。
アニサキスとほかの食中毒の違い
アニサキス症のほか、食中毒には多くの種類があり、それぞれ原因や症状が異なります。代表的な特徴を覚えておくと万が一の時に役立つでしょう。
以下のような違いを確認してみてください。
食中毒名 | 原因 | 症状 |
---|---|---|
アニサキス症 | 魚介類に寄生する『アニサキス幼虫』による発症 | ・みぞおちの激しい痛み(胃痛)や腹痛 ・下痢症状はない |
ノロウイルス | ウイルス性(ノロウイルス)による発症 | ・吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など |
カンピロバクター | 細菌性(カンピロバクター菌)による発症 | ・発熱、吐き気、嘔吐、筋肉痛、下痢など |
ノロウイルスやカンピロバクター菌による食中毒は、感染後数時間から1日程度で症状が現れますが、アニサキス症では食後数時間以内に激しい胃痛が発生することが多く、下痢の症状はほとんど見られません。
アニサキス症は、特に生魚を摂取した後に症状が現れた場合に疑われます。自己判断は難しいため、症状が続く場合には早めに医療機関を受診しましょう。
アニサキスは胃と腸のどちらに影響を与える?

アニサキス症は胃と腸のどちらでも引き起こされる可能性があります。
ここでは、胃アニサキス症、腸アニサキス症それぞれの特徴や、アレルギーに対する注意喚起などについて紹介します。
胃アニサキス症の特徴
胃アニサキス症は、生の魚介類を摂取してから約1時間~数時間以内に発症することが多いです。以下のような症状が現れます。
- みぞおちの激しい痛み(胃痛)
- 吐き気
- 嘔吐 など
これはアニサキス幼虫が胃壁に侵入し、強い炎症を引き起こすためです。この状態は非常に痛みが強く、日常生活に支障をきたすことがあります。
治療としては、内視鏡(胃カメラ)を用いてアニサキスを直接除去する方法が有効です。内視鏡でアニサキスを摘出すると、多くの場合、症状が速やかに改善します。
放置してもアニサキスは数日以内に死滅し、症状が自然に治まることもありますが、強い痛みが続く場合は早めに医療機関を受診しましょう。
腸アニサキス症の特徴
腸アニサキス症は、感染後数時間から数日後に発症することがあります。
主な症状は以下の通りですが、まれに腸閉塞や腸穿孔、腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、慎重な対応が求められます。
- 下腹部の激しい痛み
- 吐き気
- 嘔吐 など
腸アニサキス症の治療としては対症療法(絶食や点滴など)が行われますが、重症化した場合には手術が必要になることもあります。
アニサキス症の重症化リスク
アニサキス症は、まれに重篤なアレルギー反応を引き起こす恐れがあります。
魚介類の生食後に蕁麻疹を発症するアニサキスアレルギーを認めることがあり、さらに血圧低下や呼吸不全、意識消失などのアナフィラキシー症状が出た症例も報告されています。
また、アニサキスが消化管から腹腔内へ移動し、大網、腸間膜、腹壁皮下などに肉芽腫を形成するケースもあり、思わぬ健康被害の原因になる可能性も否定できません。
治療が遅れると、症状の重症化や合併症(腸閉塞、穿孔)の発生率が上昇し、入院期間の延長や治療効果の低下といったリスクがあります。
魚介類の生食後に激しい腹痛などの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
アニサキスの摂取と発症の関係

アニサキスを摂取しても、必ず症状を発症するわけではありません。
ここでは、アニサキスが発症しないケースや自覚症状の有無、自己判断などについて紹介します。
アニサキスを食べても症状が出ないケース
アニサキスを摂取しても、体内に入った状態や摂取から経過した時間によっては症状が現れない場合があります。以下のような理由が考えられます。
- 加熱処理していた
- 症状が出る前にアニサキスが死滅していた
アニサキスはマイナス20度以下で24時間以上冷凍したり、60度以上で1分以上加熱したりすることによって死滅します。
また、アニサキス自体が人間の体内で1週間ほどしか生きられないため、症状が出る前に死滅していた可能性が高いです。
腹痛なしでも感染の可能性はある?
アニサキスが腸に寄生した場合でも、必ずしも強い腹痛を伴うわけではありません。感染の程度や個人差によって、軽い違和感程度で済むケースもあります。
特に、アニサキスが腸壁に深く刺さらなかった場合や、アレルギー反応が強く出ない場合は、自覚症状がほとんどないケースも珍しくありません。
また、腸に寄生したアニサキスが数日以内に死滅し、体外へ排出された場合、本人が感染に気づかないまま終わることもあります。
一方、腸内でアニサキスが活動し続けると腸壁に炎症が生じたり、腸閉塞を引き起こしたりする可能性があるため注意が必要です。
症状が軽いと気づかないケースもありますが、感染後に徐々に腹痛が悪化する場合は、腸アニサキス症の進行が疑われます。
生魚を食べた後に腹部の不調を感じた場合は、たとえ軽症でも医療機関の診察を受けることが重要です。
アニサキス症の自己判断は危険?
アニサキス症かどうかの自己判断は難しいため、「アニサキス症かもしれない」と思ったら、速やかに消化器内科などの医療機関を受診しましょう。
医療機関では内視鏡検査によってアニサキスを直接確認し、必要に応じて摘出する処置が一般的です。
特に、胃アニサキス症の場合は、内視鏡で迅速に除去することで症状が改善することが多いため、早めの受診が重要になります。
また、アニサキスの治療において特定の市販薬が有効という説がありますが、現在薬機法で認められていません。
自己判断は避け、早めに医療機関を受診することが大切です。
アニサキスによる症状が出た場合の対処法

アニサキス症の症状が出てしまった場合、どのような対処をするべきでしょうか。
ここでは、応急処置や医療機関での治療方法、緊急時に受診をおすすめする『アニサキス緊急外来』などについて紹介します。
症状が出たときの応急処置
アニサキス症の症状は、魚介類を生食した後、数時間以内に現れることが多いです。
特に、みぞおちの激しい痛みや吐き気、嘔吐が強い場合には、自分でできる応急処置は基本的にないと考えたほうがよいでしょう。水分補給をし、脱水を起こさないよう注意が必要です。
このような症状が出たら自己判断で市販薬を使用するのは避け、速やかに医療機関を受診することを強くおすすめします。
症状が軽度であっても放置すると症状が悪化する可能性があるため、できるだけ早めの受診を検討しましょう。
医療機関での治療方法
医療機関では、内視鏡検査(胃カメラ)を用いて、胃壁に付着したアニサキス幼虫を直接確認し、専用の鉗子で除去します。この処置を行えば、多くの場合、症状は速やかに改善します。
ただし、内視鏡検査が難しい場合や、腸にアニサキスが寄生している場合は、抗ヒスタミン薬やステロイド剤など、担当医師が状況や症状に応じた治療方法を柔軟に選択することも多いです。
このような治療でも症状が改善しないケースや、腸閉塞などの合併症が疑われるケースは入院が必要となることもあります。
緊急の場合は『アニサキス緊急外来』で受診を
アニサキス症の可能性が考えられる条件に心当たりがあり、症状が強い場合は『アニサキス緊急外来』での受診をおすすめします。
アニサキス緊急外来とは、生魚を摂取したあとに腹痛や嘔吐などの症状が現れた場合、迅速な診断や治療を行う外来です。
当院、広尾クリニック内科・消化器でもアニサキス緊急外来を開設しております。
アニサキス感染の可能性がある場合には胃カメラ検査を行い、胃の中にアニサキスを確認した際には即時摘出が可能です。
以下のような症状が出た場合には、特に緊急外来での受診が必要な状態だと考えられます。
- 生魚や刺身を食べた後に急激な腹痛や嘔吐症状が出た
- 食後数時間以内に腹部に違和感や激しい痛みが出た
- アニサキス症が発症する条件下で発熱や全身の不調を感じる
重症化して苦痛が増したり、合併症が発症したりする前に、アニサキス緊急外来で早期の診断と治療を受けましょう。
また、状況によっては「アニサキス症じゃないかもしれないから…」と考えるかも知れません。しかし、実際に診察・検査をしなければ正確な判断が難しいこともアニサキス症の特徴です。
我慢し続けて重大な状況になるよりも、「もしかして」の段階で受診しましょう。どうしても迷った際には、アニサキス緊急外来へ電話で確認するのもよい方法です。
まとめ
アニサキス症は生魚を食べた際、体内に入り込んだアニサキスによって胃や腸に強い痛みなどを引き起こす食中毒の一種です。
強い症状が起こらないケースもありますが、一度発症すると強い苦痛が伴うケースが少なくないため、生魚や加熱・冷凍が不十分な魚を食べる時には注意しましょう。
放置すると症状が悪化する可能性があるため、医療機関を受診し適切な診断・治療を受けることが大切です。
広尾クリニック内科・消化器では、アニサキス緊急外来を開設し、アニサキス症の可能性がある患者さんを迅速に診察・検査し、確定診断と治療を行っています。
「アニサキス症かも」と感じたら我慢せず、お気軽に当院までご相談ください。